成長戦略で国民所得の倍増を

第2次・第3次産業だけのためのTPP

2015年10月、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定が大筋合意となりました。これは、日本、アメリカ、オーストラリア、カナダ、シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイ、ベトナム、ペルー、マレーシア、メキシコなど12カ国の経済連携協定です。大筋合意といっても、まだ国民にその合意内容の詳細は知らされていません。

内閣官房のTPP政府対策本部は、「TPP協定ルール分野において想定される具体的なメリット例」という資料を公開しましたが、そのほとんどが第2次産業ならびに第3次産業分野、すなわち工業、サービス業の分野におけるもので、第1次産業分野、すなわち農林水産業のメリットはあまり見えてきません。安倍政権が目指しているのは、第1次産業から第3次産業までバランスのいい経済発展ではないようです。というより、「安倍政権は工業とサービス業の発展しか考えていなくて、農林水産業のことはまったく眼中にない」と言っていいのではないかと思えるほどなのです。

日本の食糧生産額の3分の1が失われてしまう

具体的に、政府がどのような試算をしているか見てみましょう。2013年3月に内閣官房は「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」という資料を出しています。これは、関税は即時撤廃するものと仮定し、追加的な対策は計算に入れていません。

この試算によると、日本経済全体で輸出は0.55%(2.6兆円)増えて輸入は0.60%(2.9兆円)減少、消費は0.61%(3.0兆円)、投資は0.09%(0.5兆円)増加するとされています。

そして、農林水産物の減少額は3.0兆円とされています。その内訳は「(別紙)農林水産物への影響試算の計算方法について」という別の資料にまとめられています。

これによると、米が1.01兆円減、豚肉が0.46兆円減、牛肉が0.36兆円減、牛乳・乳製品が0.29兆円減、砂糖が0.15兆円減、鶏卵が0.11兆円減、鶏肉が0.1兆円減、小麦が0.08兆円減、その他農産物が011兆円減、林産物が0.05兆円減、水産物が0.25兆円減となっています。農林水産物の生産は大幅な減少を余儀なくされるのです。

そして気をつけたいのは、先の統一試算のところに注意書きとして「TPP交渉11か国に対して関税を撤廃した場合の農林水産業の生産減少額は3.4兆円」とされていることです。

TPPに関して政府は、いいことばかり国民に述べてきましたが、農林水産業の生産額が3.4兆円も減ることについては、きちんと説明してきていません。

第1次産業に従事する人は238.1万人(総務省統計局「平成22年国勢調査」による)ですから、大雑把な計算で1人当たり約142万8000円の生産額の減少になるということなのです。これは、とんでもない話です。238.1万人の第1次産業に従事している人たちの生活が立ち行かなくなることは、火を見るより明らかです。

TPPの妥結によって安倍政権が目指しているのは工業とサービス業の発展でしかないことは、この計算からも明らかです。

さらに、この農林水産物の減少額のデータからは、もっととんでもないことが見えてきます。安倍政権は、危機感を煽って安全保障関連法案(安保法案)を成立させましたが、食料の安全保障については、まったく考えていないのです。

日本の食料自給率は生産額ベースでこそ64%ですが、カロリーベースでは39%に過ぎません(2014年、農林水産省)。

このデータを見ていくと、本当に驚いてしまいます。食料自給率について農林水産省が行っている金額ベースの計算で「食料の国内生産額」は9.8兆円とされています。これに対して「食料の国内消費仕向額」、すなわち国内で消費される食料の額は15.3兆円です。ここで先の関税を撤廃した場合の農林水産業の減少額を思い出してください。3.4兆円でしたから、TPPで完全に関税が撤廃されると、食料の国内生産額の3分の1近くが失われてしまうということなのです。減少額のうち林産物は0.05兆円減でしたから、細かく考えるとしても3.35兆円の減で、3分の1近くであることに変わりありません。

妥結したTPPの協定ではいますぐ農林水産物の関税が完全に撤廃されることにはなっていませんが、これだけ農林水産業に厳しい打撃を与える試算をしながらTPP交渉に臨んだ安倍政権のあり方に危機感を覚えるのは私たち新党やまとだけではないと思います。

TPPの陰でないがしろにされたアジアとの経済協定

日本の輸出入の相手国ならびに地域を見ると、上位10カ国に入っているTPP加盟国はアメリカ、シンガポール、オーストラリア、マレーシアだけです。上位10カ国に入っている中国、韓国、台湾、タイ、ドイツ、インドネシア、マレーシアなどはTPPに加盟していないのです。これらの国々や地域と、個別のFTA(自由貿易協定)もしくはEPA(経済連携協定)の妥結に向けて努力したほうがいいのではないかと考えるのはきわめて自然なことでしょう。

しかし、安倍政権は、そんなことは考えてもいないようなのです。

TPPを推進することによって、交渉中の日中韓自由貿易協定は2011年5月の合意から5年近くも、進展のない状態が続いています。また、ASEAN10カ国(東南アジア諸国連合。インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)と、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドなど、計16カ国が目指す東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も、日本が提唱していた東アジア包括的経済連携(CEPEA。ASEAN+6)と中国が提唱していた東アジア自由貿易圏(EAFTA。ASEAN+3)との統合を目指すことが2011年11月に決まりましたが、なかなか進展がありません。

アメリカに追随して日本の政権がTPPに注力しているあいだ、これらの日中間、東アジアの経済連携協定は棚上げになっているのも同然の状態なのです。

TPPで日本に不利な条件をたくさんのまされるよりも、政府にはやるべきことがあったはずです。多国間の経済連携協定は一朝一夕には無理だとしても、農業や漁業、そして工業やサービスに関する個別の交渉については、さまざまなやり方ができたでしょう。

農業については、1886年から1994年にかけて行われたウルグアイ・ラウンドでもミニマム・アクセス(最低輸入機会)くらいしか決められませんでした。2国間交渉であれば、日本のさまざまな技術移転、さらには投資を条件として関税を維持したり、経済援助と絡めたり、さまざまな交渉の余地があるはずです。しかし、そういう努力を日本の政府はしてきていません。

また、台湾、韓国、中国との漁業協定は、いまや喫緊の急といってもいい状態です。台湾、中国、そして韓国の漁船の乱獲によって、水産資源が枯渇しかかっているのです。

その一例がサンマです。それぞれ近海でサンマ漁をしている日本とロシア、大型船で日本やロシアの近海に回遊してくる前のサンマを公海上で大量に獲ってしまう台湾、中国、韓国、そしてサンマ漁をしていないアメリカとカナダの7カ国で北太平洋漁業委員会(NPFC)という組織をつくって交渉しているのですが、なかなか進みません。

しかし、そうこうしているうちに、日本の2015年暮れのサンマの漁獲は前年同期比で半分以下になってしまいました。台湾は日本のサンマ漁船の50倍もの大きな船で公海上でサンマを獲ってしまいますが、3年ほど前から中国がそれより大きな船でやはり公海上でサンマ漁を始めました。日本の近海にサンマが近づく前に獲ってしまうのです。日本の小さなサンマ漁船では、公海にまで出て漁をすることができません。

新党やまとは国民の所得を倍増させ、GDP(国内総生産)を押し上げることを経済成長戦略の柱として掲げていますが、これを実現するためには、アジアの国々ならびに地域との経済連携協定、そして農業や漁業の2国間交渉に早急に取り組まなければなりません。日本経済のバランスのいい発展のために、これらは不可欠な政策なのです。

国民所得倍増の経済成長戦略

新党やまとは、国民の所得を倍増させる経済成長戦略を経済政策の柱に据えていますが、ここからは、それについて解説していくことにします。

❶科学技術の振興

日本人のノーベル賞受賞者が2015年までに24人を数えました。最近の研究はビジネスとしても成功することが多くなっています。しかし新党やまとは、必ずしも事業として成功するような研究だけ支援をするのではなく基礎研究にもしっかり予算を割り振り、①研究者の層が厚くなる政策と、②研究のレベルが上がる政策の2面から、科学技術の振興を考えていきます。
具体的に、まず①については「高学歴ワーキングプア」「学歴難民」と呼ばれる人たちを救済するため、大学の研究者の身分保障の制度を創設するとともに、企業や政府・地方自治体と大学のあいだでの人事交流ができる環境を整えていきます。これは、研究成果の事業化にもつながるでしょうし、また海外への頭脳流出の防止にもつながります。
さらに②については、国として研究開発に力を入れる分野をしっかり決めて、特別な事業としてこれまでの研究費とは別枠で支援したいと考えています。日本学術会議のなかにこの分野を決める委員会を設けていただくとともに、効率的かつ公平な支援の仕方について助言していただきたいと考えています。

❸日本経済の基盤を支える中小企業への抜本的支援

日本には独自の素晴らしい技術をもった中小企業がたくさんあります。これまで日本の工業技術が世界のトップランナーでありつづけられたのは、そういった企業があればこそでした。

新党やまとは、①そういった光る技術をもった中小企業の支援を積極的に行っていくとともに、②ベンチャーを立ち上げやすい環境も整えていきます。
まず、①については、中小企業の「技術バンク」を設立して固有の技術をネットで閲覧できるシステムを構築していきます。これにより、中小企業は下請けとしての仕事だけでなく、広く日本中から仕事が受注できるようになります。
さらに②については、新たにベンチャーを設立するアントレプレナー養成のための学校を設立するとともに、起業して間もない時期に会計処理や契約事務を会計事務所や弁護士会を通して支援するシステムを構築していきます。

新党やまとの経済活性化策は、国民所得の倍増とともに、明るく生き甲斐のある社会の実現を目指すものです。日本人でよかったと誇りをもてる社会構築のため、経済政策にも力を入れてまいります。