戦後70年、日米友好対等の時代へ

独立国家としての尊厳が踏みにじられている

日本とアメリカのあいだには「日米地位協定(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定)」という条約があり、日本国内での米軍関係者の特権的な地位が定められています。

その内容は、独立国としての日本にとってはなはだ屈辱的なものです。日米地位協定には大きく分けて3つの問題があるので、まずそれについて見ていくことにしましょう。

➊日本国内の契約なのに、米軍基地や施設などの賃貸契約が日本の法律に従うものでなく、契約の期限が明示されていなかったり、さまざまな法律的な責任が免除されていたりと、アメリカにとって一方的に有利な内容になっています。

➋米軍や米軍基地内で米軍が行うことについて、日本は何ひとつ規制することができません。たとえば、夜間の飛行訓練など、近隣住民から中止の要請があっても、いっさい配慮されることはありません。また、廃棄物の埋め立てや危険物の貯蔵などについても、規制するどころか、あるかないかの情報すら開示されません。

➌在日米軍の米兵や軍属は、公務執行中に事件を起こしたり犯罪を犯しても日本の警察が逮捕できない「不逮捕特権」をはじめとするさまざまな特権を有しています。また、公務執行中でなくても、事件を起こして基地内に逃げ込まれてしまうと日本の警察は手を出すことができません。身柄の引き渡しを求めてもそのまま帰国してしまうこともあって、日本国内で起きた事件や犯罪なのに日本の警察は介入できないのです。

日本人として、こんな地位協定を許しておけるのか

米軍関係の犯罪は、そのほとんどが起訴されません。また、大きな事故に関しても、日本の警察権は米軍の前では無力です。

2004年8月13日、米軍普天間基地所属の大型輸送ヘリコプターが沖縄国際大学の建物に接触して墜落、炎上する事故が起きました。ヘリコプターが墜落したのは大学の敷地内でしたが、鎮火するやいなや米軍が規制線を引き、日本の警察、政府関係者、大学関係者は立ち入りできなくなりました。自国で起きた事故に際して警察が立ち入りを許されないなどということは、主権国家ではあり得ないことです。

大きな問題は、これだけではありません。

首都圏には米空軍横田基地の横田進入管制区(横田空域)があり、東京都、神奈川県、群馬県、埼玉県、静岡県、栃木県、長野県、新潟県、山梨県にまで広がっています。この横田空域は、羽田空港の拡張のために日米の合意に基づき2008年9月までにその一部が日本に移管されましたが、いまなお横田空域は日本の東西を分断しています。事前に申請して許可が出れば民間航空機もこの空域を米軍の管制のもとで飛行できるとされていますが、そのつど許可が必要なので実際には飛行していません。日本の中央部の空は米軍の管理下にあるのです。

2008年9月までに行われた一部空域返還に伴う経済効果を国土交通省は年間約98億円と試算しました。東アジアのハブ空港の地位はいまや韓国の仁川国際空港に奪われてしまいましたが、横田空域の存在が、日本の空港の立地条件を大きく制約していることは間違いありません。日本が東アジアのハブとしてこの地域の発展に貢献するためには、横田基地を返還してもらい、首都圏の空域を民間航空が自由に使えるようにしなければなりません。

地位協定を改定してパートナーとして米軍を受け入れる

このような地位協定について、日本は何度かアメリカに改定の申し入れを行ってきました。これに対してアメリカは、「改定ではなく、運用面の改善で対応する」として交渉にまったく応じていません。これは、日本政府が本気になって改定に取り組んでこなかったからです。

米軍は世界各地に駐留していますが、日本と同じように第二次世界大戦の敗戦国であるドイツにはNATO(北大西洋条約機構)軍として駐留しています。ドイツのNATO軍との地位協定(ボン協定)は何度も改定され、NATO軍にはドイツの国内法で定める範囲の訓練しか認められていません。ですから、飛行訓練の空域、時間などもドイツの法律に従って規制されています。さらに、必要な場合にはドイツ警察がNATO軍の基地内に立ち入る権限も認められていて、地域住民や地域経済に配慮して基地の返還請求もできることになっています。ちなみに、日本やドイツと三国同盟を組んでいたイタリアでも、飛行訓練を行う場合にはイタリア政府の許可が必要です。

ドイツ、イタリアとも、日本の地位協定とは明らかに異なります。これまで日米地位協定が改定できなかったのは、政府の怠慢以外の何ものでもありません。

かといって、米軍不要論を唱えるつもりはありませんし、日本は米国に頼らなければ国を守ることができないとも考えていません。

かつてフィリピンは米比相互防衛条約を見直し40年にわたって駐留していた米軍を1992年に完全撤退させました。しかし、米軍の不在を衝いた中国に、南沙諸島(スプラトリー諸島)を占領されてしまいました。その後、中国は南沙諸島を埋め立てて滑走路までつくってしまいましたが、日本がいま米軍に撤退を求めて国内の米軍基地がすべてなくなったとしても、中国は南沙諸島でしたようなことを尖閣に対して行うことはできないでしょう。自衛隊の防衛力も、日本の国力も、フィリピンの比ではないからです。

いま日本は、独立国としての防衛力を徐々につけつつあり、法律の整備も進めています。これから日本は、国内にある米軍基地について、アジアの安全保障に日本が協力するという観点から整理していく時期にきています。しかし、だからといって米軍の完全撤退は考えるべきではありません。

米軍は世界各国に駐留して世界の秩序維持を担う存在となっており、日本駐留の米軍部隊も対テロ戦争のためにイラクやアフガニスタンなどに派遣されています。さらに、シーレーン防衛においても、米軍は重要な役割を担っています。日本はエネルギーはじめ重要物資の輸出入を海運に頼っていますが、それらを運ぶ商船の多くが便宜置籍船(船主がいる国ではなく税金などの安い国に船籍を置く船)であるため、多国籍の軍隊で守らざるをえないのです。

いまや米軍は日米の安全保障という枠を超えて世界の秩序維持に欠くことのできない存在であり、日本も一部の米軍基地を引き受けてこの一端を担うのは国際社会の一員として当然の義務なのです。

ただし、防衛力は十分に強化して、米軍に依存しない体制を確立しなければなりません。これによって日本は、地位協定のあり方、そして在日米軍基地のあり方についてアメリカと対等に交渉できるようになり、横田基地の返還を求めて首都圏の航空交通の障害を取り除くとともに、自尊の心を取り戻すことができるのです。